留学中、私が在学していた音大では時々、有名はアーティストを呼んで、公開レッスンをしていました。その中でもヨーヨー・マ(チェロ奏者)の公開レッスンは未だ、興奮と共に忘れられない楽しいものでした。
ヨーヨー・マは4歳からチェロを始めたのにもかかわらず、すでに8歳にしてレナード・バーンスタイン率いるコンサートでテレビ出演し、その後、師事していたジュリアードの教授から「君にはもう教えることはない」と言われてハーバード大学に16歳で入学。
卒業後はオーケストラとの共演などクラシックを中心に、歌舞伎などとも共演したり、常に音楽の可能性を広げていく活動をしている、最高峰の演奏家の一人です。
日本にも多くのファンがいます。彼も日本が好きなんだと思います。一昔前は頻繁に日本に来て演奏をされていました。
(最近はあんまり来ないような・・・ どうしたんだろう??)
私もバッハの無伴奏を一度ライブで聞いたのですが、ヨーヨー・マのインテリジェンスな音楽解釈と物凄い集中力、それがバッハの奥深さと合わさって、聴衆が呼吸するのも忘れる程に彼の音楽に包み込まれていく素晴らしい演奏でした。
そんなヨーヨー・マの公開レッスンが学内であるというので、チェロの事は何も分からないものの、一目、ヨーヨー・マ見たさに公開レッスンを聴講しました。
公開レッスンは音楽の本質的な部分にアプローチしつつ、笑いに溢れた温かいものでした。
中でも記憶に残っているのが、演奏テクニックは素晴らしい学生に、更に音を深く遠くに響かせる様に指導していた時に、学生があまりに緊張して引きつった笑みでカチコチになっていたので、「大地からエネルギーを吸い上げて弓で開放するように・・・う~~ん、なかなか上手くいかないね。 さぁこんな感じだよ」と何フレーズかお手本で弾いた後に
「よかったら僕のジャケットを着てみる??そしたらもう少し自由に弾けるかも」
(軽い冗談で会場の雰囲気が柔らかくなって、学生も少し音が伸びてきて)
「あ、なんか良いね!じゃぁ僕の靴も履いてみる?? もっと良くなるかもよ」
と茶目っ気たっぷりに、アメリカンユーモア??を交えながら、会話を楽しみ、
そしてとっても自然に、質の良い音を十分に聴いて、それを舞台で表現する方法を教えていました。
学生に対しても、とても紳士的でフレンドリー、英語もとても綺麗で、凄い人なのに親しみやすくて、ますますファンになってしました。
「こんな経験はなかなか日本では出来ない」と、NYにいて、ちょっとお得に感じた出来事でした。
良かったらヨーヨー・マの演奏を聞いてみてください。
洗練されたテクニックと人間味溢れる音楽性。一流とはこういう物か、と感じられる、深くて・豊かで・大きな演奏に包まれると思います。